"物語・8月15日の卵・1945年・3月30日夕方"

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物語・8月15日の卵・1945年・3月30日夕方

幸一さん






「遅くなってごめん、5時に仕事が終わって片付けをして急いで走って来たけど、間に合わなかった」
身長は勝彦よりも10センチほど高いが、がっちりとした身体つきで負けん気が強そうな顔つきだった。
けれど笑うとえくぼが出来て愛嬌があり、幸江小母さんに似ていた。
「勝彦ちゃんか・・・待っていたぞ。よし乃小母さんの子ならおれの弟みたいなものだからな。」
「よろしくお願いします」
勝彦はしっかりと正面を見て頭を下げた。
「母ちゃん腹減った。早く何か食わしてくれよ。親方の所のお昼はサツマイモを蒸かしたものだけで、屁ばっか出て力が入りはしないよ」
「馬鹿いってんじゃないよ。いくら弟分だって失礼だろ・・・お前を皆待っていたんだよ。早く顔と手を洗ってきな」
勝彦は気取らないその物言いに親しみを覚えて、何となくほっとした。
「親方が母ちゃんにこれ持ってけってくれたよ。なんだか知らねえが臭くてたまらなかったぜ。知り合いの人がこっそりくれたものだって。」
「あれまぁ・・・棒鱈じゃないか、もう少し早ければ煮物に間に合ったのに。でも貴重なものを有難うございますとお店に帰ったら言っておくんだよ。後でよし乃ちゃんの所にもおすそ分けするからね」
そういって新聞紙に包んだものをお仏壇に供えて手を合わせた。

よし乃が姑のタツを連れて二階から降りてきた。今年の正月ぐらいまでは元気に家の仕事を手伝っていたが。幸江の夫の一郎が2月終わりに召集されてからすっかり元気をなくして持病の神経痛も悪くなって寝たり起きたりするようになってしまった。
そこで、3月の空襲で吉野が焼け出されて疎開してきて幸江としては大助かりなのだ。
「これがよし乃さんの息子の勝彦さんかい。賢そうなぼこだね。よろしくね」
弱弱しい声でいった。
「ばあちゃん元気だしなよ。大好きなカボチャの煮つけもあるぞ。」
幸一がそう言うと、うれしそうに微笑んだ。
「それにしても、またけんちん汁かよ。母ちゃんは赤飯と言うとバカの一つ覚えのように必ずケンチンするのだからなぁ」
「当たり前じゃないか。私が嫁に来る前からこの家ではケンチンと赤飯の組み合わせは決まっているんだよ。ねぇ母さん…文句があるなら食べるのやめな。今日は珍しく豆腐が手に入ったから、美味しいはずだよ。」
「文句はねえけどできればもう少し精のつくものでも入っていればな・・・たとえば鶏肉のようなもんでもな・・・」
「馬鹿だね鶏が入ったらケンチンではなくなるじゃないか。ケンチンには生臭いものは入れないんだよ。」
二人のやり取りはポンポンと活気があって、勝彦はあっけにとられてしまった。

 

yodaさんの投稿 - 17:36:19 - カテゴリー: 依田先生の徒然日記
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