"物語・8月15日の卵・1945年3月30日・夜"

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物語・8月15日の卵・1945年3月30日・夜

少年倶楽部






どの料理も心がこもっていて大変美味しかった。
特に甘い卵焼きはとろけるような美味しさだった。
赤飯も程よく炊き上がっていて、小豆の色と匂いが父親の出征の時のことを思い出させた。
勝彦はゆっくりゆっくりとかみしめながら味わって食べた。
このような食卓の暖かさをずっと忘れてしまっていたことに気が付いた。

「この子は勉強はからっきしダメで、高等科には行かせなかったけど、身体だけは丈夫だったから、早く手に職をつけさせようと思って親方の所で修業させているのよ」
「余計なことを言うな、確かに勉強は出来なかったけれど、喧嘩は強かったから、相正学校では俺が大将だった。」
「何が大将のものか、ほんとに喧嘩ばかりしていてしょっちゅう学校に呼び出されて、大迷惑だったよ。でも不思議と友達は多かったよね」
「相正の5年も6年も今年の高等科の連中はオレの子分みたいなものだから、床屋の幸ちゃんと名前を出せば皆ビビる」
「馬鹿をお言い、変な事を勝彦ちゃんに吹き込むんじゃないよ。」
「ウルセイなぁ…こんな所にいるとなにを言い出すか分からんから、俺の部屋に行こうぜ。」
そういって幸一は立ち上がり、勝彦についてくるようにうながした。
「いいかい、そんな奴の言う事、半分ぐらいに聞いときなよ…そうだ、確かお前の6年の時の教科書取ってあったハズだから、勝彦ちゃんにあげなよ。」
後を追いかけるように幸江が言った。

幸一の部屋は二階の階段を上がった取っ付きにあり、3畳ほどの広さだった。
中はきちんと整頓されていて机もあったが勉強関係の物は見当たらなかった。
机の上にしつらえてある棚には少年倶楽部や「のらくろ」「冒険ダン吉」の単行本もあった。
「そうだ、忘れないうちに教科書な・・・算数に国語に理科と歴史。修身は話が嘘っぽくて好きじゃないから捨ててしまった。」
そう言って、表紙にいたずら書きのしてある4冊を渡した。
「ここにある本はいつでも読んでいいから・・・少年倶楽部は毎月買っていたから古いのもあるから。」
勝彦は前から読みたいと思っていた「のらくろ」があるのが嬉しかった。
早速、棚から少年倶楽部を一冊取り出してひらいてみた。
懐かしいインクのにおいがした。





yodaさんの投稿 - 17:09:49 - カテゴリー: 依田先生の徒然日記
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