"物語・8月15日の卵・4月2日・午後"

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物語・8月15日の卵・4月2日・午後

秋元鉄工所







「もう商売はやめちまったけんど、武の頼みじゃ仕方ねえな。どれ見せてみな。」
そう言って小刀を受け取って調べた。
「刃が欠けてるなぁ・・・これは荒砥からかけないと無理だな。ちょっと時間がかかるぞ。」
「どのくらいかかるで」
「そうだな、1時間ぐらいかな・・・そちらの兄ちゃんは見かけない顔だけど武の友達か」
「東京で空襲にあって疎開してきた勝彦って言うんだ。松村小路の三井の床屋に厄介になってるんだ」
「ああ、そういえば先月から新しい女の人が働き始めたけんど、あの人の子か」
「そうだよ、おとといから友達になった」
「そうか、大変な目にあったずら。親切にしてあげな・・・そっちの兄ちゃんも何か砥ぐモノがあるのかい」
「錆びた肥後守を持ってるんだけどそれも砥いでくれませんあか」
「見せてみな・・・これは10分もあれば仕上がるな。砥ぎ賃はいらねえから、裏庭の片づけでもしてってくれ」
ジイサンはニコニコ笑いながら言った。

武と勝彦は工場の裏に回ってがらくたを整理し始めた。
するとゴミ捨ての中に古びた皮の手袋を見つけた。
「これ、弾込めの皮にちょうどいいぞ」
武は大発見でもしたように嬉しそうに言った。
おそらく熱した鉄を持ったりするときに使ったものだろう。所どころ破れているが2人分のゴムカンの弾を挟むぐらいの大きさは十分にとれそうだった。
使い込んだ皮なので油が沁み込みしなやかだった。
「たぶんごみために捨ててあるものだから頼めばくれると思う」
「今、思いついたんだけど、弾を込めるというよりも、ハサムだよね。弾バサミというか、そうだハサミにしないか」
「そうだな、ツカにハサミ、簡単でいいや・・・俺たち二人の呼び方でいいものな」
そして、いろいろながらくたを整理してゴミタメに集めていると古びた電気のコードが捨ててあった。
長さは1メートルほどだったが、ボロボロになった布の中から銅線が見えた。
「これも使えるかも知れない」勝彦が言うと、武も目を輝かせた。
「ゴムをツカに括り付けるのにちょうどいい・・・凧糸を探したが、無いからどうしようと思っていたけど、これで材料は全てそろった。ついでにジイチャンにペンチや穴あけ道具を借りよう。」
作業場に戻って裏庭の片づけが終わったことを告げて、皮手袋と電気コードを欲しいというと「欲しいものは何でも持ってけ」と言った。

勝彦の肥後守はすでに砥ぎあがっていてすっかり錆は落とされて刃物独特の鈍い光を放っていた。刃先に触って見ると見事に刃がよみがえっていた。
「そこらにある新聞紙で試し切りしてみな」
と武の小刀を仕上げの砥石に懸けながらぶっきらぼうに言った。
言われた通りに新聞紙を広げて肥後守の刃を当てて斜めに切り下すと小気味よく切り裂かれていった。

ゴムカンの仕上げはよし乃が蒸かしてくれたサツマイモを食べながら勝彦の部屋でやった。
ゴムの強さもハサミ具合いもちょうどよく、何よりも最後に見つけた電気コードの中の銅線が役に立った。
回りの布を抜いてみると新品同様の線が出てきたのだ。
ツカの又にゴムを括り付けるのにもゴムとハサミを結びつけるのにも役に立ち、銅線の柔らかさが扱いやすくそれにじょうぶだった。
出来上がったゴムカンを空撃ちしてみると手によくなじんで上々の出来栄えだった。
「勝っちゃんこの芋一本くれねえか・・・鍛冶屋のジイチャンに借りた道具を返しながらもって行こうと思うんだ」
「いいよ、一つと言わず二本持って行ってあげなよ」
二人は金山神社に行って出来上がったゴムカンの試撃ちをしてみた。
照準を合わせるのに慣れなかったがかなりの威力があり、電線に止まっているスズメぐらいなら落とせそうであった。
「今度、休みの日に愛宕山にでも行って鳥打ちやってみらざあ」
と言って二人はサヨナラをした。


yodaさんの投稿 - 17:34:01 - カテゴリー: 依田先生の徒然日記
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