"入院読書・忘れられた日本人(宮本常一著・岩波文庫)"

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入院読書・忘れられた日本人(宮本常一著・岩波文庫)

名もなき人々







今回の入院は2週間にも及ぶことを主治医から言われていたので,有余る時間の中で是非読んでおきたいと思った本を持ち込んだ。
その1冊が「遠野物語」であり、それを継承する形で「忘れられた日本人」を選んだ。
どちらも日本の民俗学の先鞭をつけた名著であり今も読み継がれている。

「忘れられた日本人」の著者の宮本常一は昭和の時代に活躍した人で同じ民俗学であってもて徹底して日本各地を踏査して名もなき人々からその生活ぶりを聞きだした。
彼が日本全国を歩いた道を赤い線でたどっていくと日本地図が真っ赤に染まると言われるほど各地を訪ねている。
私としてはどちらかというと座学に近い柳田の学問体系よりも宮本の方が好きである。
彼はもともと小学校の教師から出発した人で、その語り口は優しく分かりやすい。
私が宮本の著書に出会ったのは今から40年ほど前のことで、小学校の教科書の編集を手伝っていた時、説明文として彼の文章を取りあげたのだ。
「久賀の漁師」という作品だったと思うが当時の編集長が推薦した。
小学6年生の教科書に載せたと思うが子ども達にも理解できる文章だった。

さて、「忘れられた日本人」であるが、1958年に民話という雑誌に何回かに分けて発表された文章を一冊にまとめたものである。
私が手にしているテキストは岩波文庫で1984年となっている。
内容は13章からなっていて、その文体は聞き書きであり、話し手の言葉がそのまま生かされている。
明治、大正、昭和と生きた名もなき人々に行き会ってその人生を語らせて文章として留めているのだ。
その名もなき人々の多くは「無字社会」に生きた人々で昔から語り継がれてきたことや、自分自身が体験した事を宮本に飾ることなく語っているのだ。
歴史の表に出ている人々の多くは文字によって綴れた資料によって記録されているが、本書に登場する人々は名もなく忘れ去られた人々ばかりなのだ。
けれど、これが宮本の聞き書きによってその生き様が見事に光り輝き読む者に伝わってくる。

本編に収録されている話はどれも面白いが特に「土佐源氏」と題されている一編は圧巻である。
土佐の盲目の博労の一代記で全編がこの男の独白から成っている。
この一編だけを取り出してある新劇の俳優が舞台仕立てにして全国を公演していたそうであるが、その語り口は読者を魅了してやまない。
実は「忘れられた日本人」は今までに何回も読んできた本であるが、何回読んでも飽きない・・・そこには名もなき人々のまっすぐな生き方が描かれているからだ。





yodaさんの投稿 - 17:36:53 - カテゴリー: 依田先生の徒然日記
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