"透析日記・出会い"

10 / 11

透析日記・出会い

ご挨拶









別れがあれば新しい出会いもある。
今度のベッドのお隣さんは女性だった。
年のころは70歳前半という所か。
声は何度か聞いたことがあるが面と向かって挨拶するのは初めてだ。
その声なるものは・・・更衣室が隣で透析を終えてご主人らしき人に電話をしているのだ。
「今終わりました・・・これから帰りますのでよろしくお願いします」とまず言う。
そして続けて「歳なのだからくれぐれも気を付けてね」という。
どうやらご主人に車で迎えに来てもらうらしい。
ちょうどこのご婦人とは透析の終わりが私と同じぐらいなので毎回この夫婦の会話を聞かされる。
勿論、電話の相手の声は聞こえてこないが、ご婦人の口調からお互いがいたわり会い助け合って生きていることが伝わってくる。

「初めましてよろしくお願いします」
というと、はじめ戸惑ったような顔付になったがすぐに「こちらこそ」と返事が返ってきた。
「このクリニックにきてご挨拶を戴いたのは初めてだわ」笑いながら言った。
「前からお声だけは聴いていたのですが・・・お会いするのは初めてです」
「アラいやだどこで声を聴かれたのかしら・・・」
「更衣室でご主人にかけている電話ですよ。」
「恥ずかしいわ・・・変なこと言ってないでしょうね・・・」
「大丈夫ですよ。毎回気を付けてねと愛情深く言っていますよ。」
「主人は今年75歳になるんだけれどそろそろ運転が危なくなっているのです。でも迎えに来てもらわないと困ってしまいますしね・・」
「私はもうすぐ80歳になりますが75才で免許を返納しました。」
「そうですか・・・うちも考えないといけないかしら・・・それにしても透析は死ぬまで続けなければならないので何か方法を考えないといけないわね」
「私は来るときはバスで来ますが帰りはほとんどタクシーを使っています。一応優遇措置もあるのでそれを利用しています。」
「私の家は比較的近いので歩けないこともないのだけれど透析の後は消耗しているから怖いのよね。」
「私も時々へろへろになってこのまま逝ってしまうのではないかと思う時があります。人生80年近く生きたのだから『もういいか』と思う時があります。」
するとご婦人はきりッとなって
「そんなこと言っちゃだめですよ。せっかくいただいた命なのだからできるだけ生きなきゃ・・・」
軽い気持ちで言った言葉を重く返されてしまった。

「お互いに頑張りましょう」と言われた。




yodaさんの投稿 - 13:46:28 - カテゴリー: 依田先生の徒然日記
コメント
コメントはありません
コメントを追加
このアイテムは閲覧専用です。コメントの投稿、投票はできません。
トラックバック